「他社と違うこと」が、差別化なのか
― 顧客価値から考える「差別化と集中」―
前回のコラムでは、スティーブ・ジョブズとiPhoneを例に、「顧客にとっての価値とは何か」を考えました。
顧客の声を聞くことは大切です。しかし、顧客が口にする要望だけを聞いていても、本当に求めている価値が見えるとは限りません。「何が欲しいのか」だけではなく、その人が「何を実現したいのか」まで考える。そこに顧客を理解するということの難しさがあります。
では、顧客にとっての価値が見えてきたとき、企業は次に何を考えなければならないのでしょうか。私は、ここで「差別化と集中」という問題が出てくるのだと思います。
企業は、新しい商品を開発するために多くの時間を使います。技術者が試行錯誤を重ね、営業担当者が走り回り、製造現場が品質を高める。そこには大変な努力があります。
しかし、顧客はメーカーの苦労には動かされません。
顧客の関心は、
「この製品は、自分のために何をしてくれるのか」
ということです。
そして、数多くの商品やサービスが並ぶ市場では、顧客は企業に、もう一つ厳しい問いを投げかけています。
「おたくは何が違うのですか?」
さらに、その問いには続きがあります。
「その違いは、私にとって価値のあるものですよね?」
この二つは似ているようで、実は違う問いです。
最初の問いは、競争相手との「違い」を聞いています。
しかし、二つ目の問いは、その違いに「自分がお金を払う理由があるのか」を聞いているのです。
企業にとっては画期的な技術であっても、顧客に必要がなければ意味はありません。手間をかけて品質を高めても、顧客がその違いを感じなければ、選ぶ理由にはなりません。
企業が考える「違い」と、顧客が感じる「価値」は、同じではないのです。ここに、差別化を考えるうえで大切な点があります。
もし、「なぜ、他社ではなく、あなたの会社から買うのですか?」と聞かれたとき、明確な答えがなかったらどうなるでしょうか。商品も似ている。品質も大きく変わらない。サービスにも違いが見えない。そうなれば、顧客に残された比較の基準は、次第に「価格」になっていきます。
「同じようなものなら、安い方がいい。」これは顧客から見れば当然の判断です。そこで企業が値段を下げれば、競争相手も下げる。さらに安い商品が現れれば、また下げざるを得なくなる。差別化できない企業が価格競争に巻き込まれやすいのは、このためです。
だから差別化とは、単に「他社と違うこと」をすることではありません。価格以外に、顧客が自社を選ぶ理由を創ること。
しかも、その理由は企業側の自己満足ではなく、顧客にとって価値のあるものでなければなりません。
では、どうすればそのような違いを創ることができるのでしょうか。
ここで必要になるのが「集中」です。
企業が持っている人、時間、資金には限りがあります。そして、長い時間をかけて蓄積してきた技術や経験、ノウハウにも、それぞれの企業ならではの特徴があります。
すべての顧客に応えようとし、あらゆる商品を揃え、あらゆるサービスを提供しようとすれば、それらの力は分散してしまいます。
だからこそ、経営には選択が必要になります。誰に、どのような価値を提供するのか。そして、その価値を実現するために、自分たちの強みをどこに集中するのか。
ドラッカーがいうリーダーとは、必ずしも市場で一番大きな企業になることではありません。すべての分野で最高になることでもありません。
ある分野で、市場や顧客のニーズに最も適合する何かを提供できる。
そこにリーダーとしての意味があります。
小さな会社であっても構いません。特定の顧客については誰よりもよく知っている。ある技術なら負けない。納期への対応なら圧倒的に強い。ある地域では他社にはない信頼関係を持っている。
そうした企業の中に蓄積された知識や経験を、顧客が価値を感じるところへ集中させる。そこで初めて、価格とは別の「選ばれる理由」が生まれます。
差別化とは、奇抜なことをすることではありません。
「おたくは何が違うのですか?」
そして、
「それは、私にとって価値のあるものですよね?」
この二つの問いに、自信を持って答えられるものを創ることです。その答えを創るために、自分たちの強みをどこに集中させるのか。
それこそが、経営が決めなければならないことなのだと思います。