組織は、なぜ自己目的化するのか
企業は何のために存在するのでしょうか。
ドラッカーは、この問いに対して明確な答えを示しました。それは、「顧客を創造すること」です。
企業は利益を上げるために存在するのではありません。
顧客に価値を提供し、社会に必要とされる存在であり続けることが、その使命なのです。
利益は、その使命を果たし続けるために必要な条件であって、目的そのものではありません。
この考え方は企業だけに限りません。行政機関も、学校も、病院も、NPOも、それぞれ社会の中で果たすべき使命を持っています。本来、あらゆる組織は、その使命を実現するために存在しています。
しかし、多くの組織は、年月を重ねるにつれて少しずつ変化していきます。
最初は顧客のために始めた仕事が、やがて社内のルールを守ることが目的になります。品質を高めるために作った仕組みが、仕組みを維持すること自体が目的になります。会議は意思決定のためにあるはずなのに、いつしか会議を開くことが仕事になります。評価制度は人材を育てるためのものだったのに、評価表を埋めることが目的になってしまいます。
つまり、本来は「手段」であったものが、「目的」にすり替わってしまうのです。
これが、組織の自己目的化です。
自己目的化は、誰か一人の責任で起こるものではありません。むしろ、真面目な組織ほど起こりやすい現象です。
ルールを守り、前例を重んじ、失敗を避けようとする姿勢は、本来は組織を安定させるために必要なものです。しかし、それが行き過ぎると、「なぜ、その仕事をしているのか」という根本的な問いが失われてしまいます。
ドラッカーは、「何が正しいか」を問い続けることの重要性を繰り返し説きました。
「誰が言ったか」ではなく、「何が正しいか」。
この言葉は、人間関係や意思決定だけに当てはまるものではありません。組織そのものにも向けられた問いだと私は考えています。
「この仕事は、本当に顧客のためになっているのか。」
「このルールは、使命を果たすために必要なのか。」
「この会議、この報告書、この手続きは、社会に価値を届けることにつながっているのか。」
こうした問いを持たなくなったとき、組織は外から見ると順調に動いているようでも、内側では少しずつ使命から離れていきます。
歴史を振り返ると、多くの組織がこの自己目的化によって衰退してきました。
変化する現実よりも前例を優先し、顧客よりも組織の都合を優先し、社会よりも組織を守ることを優先した結果、時代から取り残されていったのです。
一方で、長く発展し続ける組織には共通点があります。
使命は変えません。しかし、その使命を実現するための戦略や仕組み、制度は、時代に合わせて柔軟に変えています。変えてはならないものと、変えなければならないものを明確に区別しているのです。
だからこそドラッカーは、最初に「われわれの使命は何か」と問いかけました。
使命が明確であれば、手段を見直すことができます。
しかし、使命を見失えば、手段だけが残ります。そして、その手段を守ることが組織の目的になった瞬間、自己目的化は始まります。
あなたの会社ではどうでしょうか。
日々当たり前に行っている仕事やルール、会議や制度は、本当に使命を実現するためのものになっているでしょうか。それとも、いつの間にか、それ自体を守ることが目的になってはいないでしょうか。
組織が成長し続けるために必要なのは、新しい制度を増やすことではありません。
ときどき立ち止まり、「私たちは何のために存在しているのか」という原点の問いに立ち返ることです。
その問いを忘れない組織だけが、変化の時代においても社会から必要とされ続けるのだと、ドラッカーは私たちに教えているのではないでしょうか。