なぜドラッカーは「基本と原則」にこだわったのか
人は新しいものに魅力を感じます。経営の世界も同じです。ある企業が成功すると、その手法が注目され、多くの企業がそれを真似します。しかし、しばらくすると別の理論や手法が流行し、かつての成功法則は忘れられていきます。日本でも、バブル期には「土地は値下がりしない」といわれ、成果主義が流行した時代もありました。その後もグローバル経営、DX、AI活用など、新しい考え方が次々と登場しています。もちろん、新しい技術や手法を取り入れることは大切です。
しかしドラッカーが関心を持っていたのは、「何が新しいか」ではありませんでした。ドラッカーの著作を通じて浮かび上がるのは、「何が変わらないか」という問いである。
技術は進歩します。市場も社会も変化します。しかし、人が集まり、協力しながら成果を生み出すという営みそのものは変わりません。ドラッカーは、その変わらない部分にこそ経営の本質があると考えました。ドラッカーは流行する経営手法よりも、時代を超えて通用する「基本と原則」に関心を向けました。
古代ローマの軍団も、江戸時代の商家も、現代の企業も、多くの人が共通の目的に向かって力を合わせるという点では共通しています。時代や制度は違っても、人と組織が成果を生み出すための基本的な仕組みは大きく変わらないのです。だからこそドラッカーは、組織には時代を超えて通用する「基本と原則」が存在すると考えました。そのため彼の著作には、企業経営だけでなく、歴史や政治、宗教の話が数多く登場します。ローマ帝国や宗教改革、産業革命などを題材にしているのも、経営の本質を歴史の中から学ぼうとしたからです。
流行は時代によって変わります。しかし原則は時代を超えて残ります。
ドラッカーが伝えたかったのは、変化への対応力だけではなく、変化の中でも失ってはならない軸を持つことの大切さだったのではないでしょうか。
戦後の日本企業は、この考え方を比較的よく実践していました。終身雇用や年功序列には賛否がありますが、多くの企業には人を育てるという考え方がありました。また、短期的な利益よりも信用を重視し、顧客との長い関係を築こうとしていました。その積み重ねが、日本製品への高い信頼につながったともいえるでしょう。一方で近年は、効率やスピードが重視される傾向があります。もちろん効率化は必要です。しかし効率はあくまで手段であり、目的ではありません。目的を見失った効率化は、人材を疲弊させ、顧客との関係を弱め、組織の活力を失わせることがあります。ドラッカーが繰り返し警告したのも、この点でした。組織は数字だけで動くものではありません。そこには意思を持った人間が存在し、社会とのつながりがあります。だからこそ経営には、人への理解と社会への責任が求められるのです。
私は、ドラッカーのいう「基本と原則」とは、単なる経営技術ではなく、人間に対する深い理解だと思います。人は信頼を求めます。成長したいと願います。そして誰かの役に立ちたいと考えます。こうした人間の本質は、時代が変わっても大きくは変わりません。だからこそ、流行を追うだけでなく、変わらないものを見つめ続けることが大切なのです。
それこそが、ドラッカーが生涯を通じて伝えようとした「基本と原則」の本質ではないでしょうか。