ドラッカーのマネジメントと「一本の草しか生えなかったところに二本の草を育てる」

一本の草しか生えなかったところに二本の草を育てる者こそ、人類に貢献する人である」という考え方があります。

この言葉は、18世紀のイギリス(アイルランド)の風刺作家ジョナサン・スウィフトの代表作『ガリヴァ旅行記』に登場する名言ですが、ドラッカーは著作「現代の経営」において、この言葉をマネジメントの思想をまさに意味するものとして引用しています。

私は、この考え方はドラッカーのマネジメントの思想そのものだと考えています。

ドラッカーは、企業の目的を単なる利益追求とは考えませんでした。企業や組織の役割は、社会に新しい価値を生み出し、人々の生活をより良いものにすることであると考えていました。

一本しか生えなかった草を二本に増やすということは、単に数量を増やすことではありません。それまで存在しなかった価値を生み出し、社会全体を豊かにすることを意味しています。ドラッカーは、そのための手段としてマネジメントを位置づけました。

多くの人は経営というと、管理や監督をイメージします。しかしドラッカーの考えるマネジメントは、それよりもはるかに広い概念です。

人の知識や能力を成果へと結びつけること。

組織の持つ資源を最大限に活用すること。

そして社会に必要とされる価値を創造すること。

これらすべてがマネジメントの役割でした。

例えば、同じ十人の組織であっても、成果には大きな差が生まれます。ある組織では人材が埋もれ、能力が発揮されません。一方で別の組織では、一人ひとりが持つ力が引き出され、大きな成果を生み出します。投入された人員や資金は同じでも、結果は全く異なります。

これはまさに一本の草を二本にする行為と言えるでしょう。

ドラッカーは、人間をコストではなく資源として捉えました。

工場の機械であれば、古くなれば価値は下がります。しかし知識を持つ人間は、経験を積み、学び続けることで価値を高めることができます。だからこそ経営者の仕事は、人を管理することではなく、人が成果を上げられる環境を整えることにあると考えました。優れた農夫が土壌を耕し、水を引き、日当たりを整えるように、優れた経営者は人が能力を発揮できる場を整えます。農夫が草を引っ張って成長させることができないように、人も強制によって成長するわけではありません。

必要なのは育つ条件を整えることです。

ドラッカーはまた、「知識労働者の時代」が到来すると予見しました。現代社会では、土地や設備よりも知識や情報が価値を生み出します。一人の技術者の発想が新しい製品を生み出し、一人の研究者の発見が産業全体を変えることがあります。そこでは、同じ資源から何倍もの成果を生み出すことが可能になります。

まさに一本の草しかなかった土地から、二本どころか十本、百本の価値を生み出す世界です。

日本企業の発展も、この考え方によって説明できます。戦後の日本は、資源に恵まれた国ではありませんでした。石油も鉄鉱石も十分にはありません。しかし人材育成や技術革新、品質改善によって世界有数の経済大国となりました。限られた資源を最大限に活用し、付加価値を生み出した結果です。

そこにはドラッカーが説いたマネジメントの本質と重なる部分があります。

さらにドラッカーは、成果とは内部ではなく外部に存在すると述べています。企業の中でどれほど努力しても、顧客や社会に価値が届かなければ成果とは言えません。畑の中で草が育ったと思っていても、収穫されなければ意味がないのと同じです。重要なのは、自分たちが何をしたかではなく、社会にどのような変化をもたらしたかです。一本の草を二本にするとは、社会全体の豊かさを増やすことなのです。

現代は人口減少が進み、人手不足が深刻化しています。かつてのように人員を増やして成長することは難しくなっています。だからこそ、ドラッカーの思想はますます重要になります。

Add a Comment

Your email address will not be published.

CAPTCHA