「誰が正しいか」ではなく、「何が正しいか」で考える

企業の会議や打ち合わせで、こんな場面を見かけることがあります。

社長が発言すると、その意見に誰も反対しない。部長が結論を出すと、それ以上議論が進まない。ベテラン社員の経験が優先され、若手社員は意見を口にしなくなる。

もちろん、役職や経験には価値があります。しかし、そのことと「正しい判断」が常に一致するとは限りません。

ドラッカーは、「仕事は誰が正しいかではない。何が正しいかである」と述べました。

この言葉は、単に上下関係を否定しているのではありません。また、「上司に反対しなさい」と言っているわけでもありません。

ドラッカーが私たちに求めているのは、「自分の頭で考える」という姿勢です。

組織には、さまざまな立場の人がいます。経営者、管理職、現場の担当者。それぞれが異なる情報を持ち、異なる視点から物事を見ています。だからこそ、一人の判断だけで結論を出すのではなく、多様な意見を持ち寄り、「何が最も目的にかなうのか」を考えることが重要になります。

しかし現実には、「誰が言ったか」が判断基準になってしまうことは少なくありません。

「社長がそう言ったから。」

「前任者もそうしていたから。」

「昔からこのやり方だから。」

こうした言葉が繰り返される組織では、次第に考える習慣が失われていきます。やがて社員は、自ら判断することよりも、上司の意向を読み取ることに力を使うようになります。新しい提案よりも、波風を立てないことが優先されます。

その結果、組織は変化への対応力を失っていきます

ドラッカーは、知識社会では一人ひとりが意思決定に参加する存在になると考えました。知識労働者に求められるのは、指示を待つことではありません。自ら考え、自ら判断し、自ら責任を持つことです。

つまり、「考えること」そのものが仕事なのです。

だからこそ、会議は「社長の考えを確認する場」ではなく、「より良い答えを探す場」でなければなりません。

ドラッカーは、優れた意思決定は意見の対立から生まれるとも述べています。異なる意見が出ることは、組織にとって悪いことではありません。むしろ、異なる視点があるからこそ、思い込みや先入観に気づくことができます。反対意見を封じる組織では、間違いもまた修正されないまま残ります。

一方で、「何が正しいか」を共に考える組織では、立場に関係なく意見が交わされます。そして、その意見を採用するかどうかは、発言者ではなく内容によって判断されます。

これは簡単なことではありません。経営者にとっては、自分の考えが否定される場面もあるでしょう。管理職にとっては、部下の意見を受け入れる度量が求められます。社員にとっても、自分の考えを根拠をもって伝える努力が必要になります。

しかし、その積み重ねこそが、組織を強くします

「誰が言ったか」で判断する組織は、人に依存する組織です。

一方、「何が正しいか」で判断する組織は、目的に依存する組織です。

人は異動し、退職し、世代も変わります。しかし、使命や目的は組織の中に受け継がれていきます。だからこそ、判断の基準は「人」であってはならず、「目的」でなければなりません。

私たちは日々、多くの判断をしています。

そのとき、自分は「誰が言ったか」で判断していないだろうか。

あるいは、「何が正しいか」を自分自身の頭で考えているだろうか。

ドラッカーのこの言葉は、経営者だけに向けられたものではありません。組織で働くすべての人に対する問いでもあります。

考えることを他人に任せない。その姿勢こそが、一人ひとりの成長を生み、組織全体の成長へとつながっていくのではないでしょうか。

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